多能工化が進む職場と、進まない職場の差
人を増やせない。でも、繁忙の波はある。特定の作業が、一人にしかできない。この状況への現実解として、多能工化——一人が複数の工程を担えるようにする取り組み——が挙げられます。
ただ、号令をかけただけで進むものではありません。今日は、進む職場と進まない職場の差を整理します。
多能工化が進まない最大の理由は、社員のやる気ではありません。覚えても本人に得がない、という構造にあります。
進まない職場の3つの構造
① 覚えても、処遇が変わらない
新しい工程を覚えれば、任される仕事が増えます。それなのに給与も評価も変わらないなら、覚えないほうが合理的です。これは社員の問題ではなく、制度の問題です。
② 教える側に、得がない
ベテランが技能を教えると、自分の希少性が下がります。加えて、教えている間は自分の作業が止まる。教えることが評価されない職場では、教える動機が生まれません。
③ 手順が、頭の中にしかない
教えようにも、教材がない。ベテランの背中を見て覚えろ、では時間がかかりすぎます。
進む職場がやっていること
① スキルマップを、見える場所に貼る
縦に社員名、横に工程名を並べた表を作り、習得状況を記号で埋めます。
- ◎:一人でできる、人に教えられる
- ○:一人でできる
- △:補助があればできる
- 空欄:未習得
これを職場に掲示します。効果は2つ。会社にとっては、どの工程が一人に依存しているかが一目で分かる。社員にとっては、次に何を覚えればいいかが分かります。
② 習得を、処遇に結びつける
◎や○の数に応じて、手当を設ける。あるいは評価項目に組み込む。金額の大小より、会社が推奨していると伝わることが重要です。
③ 教えることを、評価する
「◎(教えられる)」の欄が増えた人を、きちんと評価します。技能を抱え込むより、渡したほうが得だという構造にします。
④ 手順を記録に残す
文書でも、スマホで撮った短い動画でも構いません。教材があれば、教える負担が大きく下がります。
進め方の順番
全工程を一度に多能工化しようとすると、必ず頓挫します。次の順で進めてください。
- ① 一人しかできない工程を特定する(スキルマップで空欄が多い列)
- ② そのうち、止まると最も困る工程を1つ選ぶ
- ③ 二人目を育てる(期限を決めて、担当を指名する)
- ④ できたら、次の工程へ
「全員が全工程」を目指す必要はありません。各工程に二人いる状態を、まずのゴールにしてください。これだけで、休暇も取れるようになり、リスクも大きく下がります。
時間をどう捻出するか
ここが実務上の最大の壁です。忙しいから多能工化したいのに、多能工化には時間がかかる。
現実的な方法は、次のようなものです。
- 閑散期・閑散日を、あらかじめ訓練日として押さえる
- 1日30分だけ、隣の工程に入る時間を作る
- ベテランの休暇中に、あえて代わりを立ててみる
3つ目は効果的です。実際にやってみないと、何が足りないかは分かりません。
やってはいけないこと
- できる人にばかり仕事を寄せる:多能工が損をする職場になります
- 習得を強制する:適性もあります。全員一律は無理があります
- スキルマップを人事評価だけに使う:監視の道具と受け取られると、協力が得られません
おわりに
多能工化は、人手不足対策であると同時に、社員が休める職場をつくる取り組みでもあります。この意味づけを共有できると、進み方が変わります。
スキルマップの作り方から、ご一緒することもできます。